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大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)4813号 中間判決 1962年12月01日

原告 日本トレーデイング株式会社

被告 株式会社新興機械製作所破産管財人 東栄 外五〇名

主文

本件につき昭和三七年一月一八日午後一時、同年五月一七日午前一〇時にそれぞれなされた証人石田孝二に対する証拠調手続は適法でその証人尋問は適法かつ有効である。

事実

本件中間の争の要旨は、被告株式会社大阪商会、同井上長太郎(以下単に被告両名という。)訴訟代理人において、「本件について、さきに吹田市西泉町三二七八番地証人石田孝二に対する尋問がなされたが、本件訴訟は昭和三一年初以来昭和三六年終頃まで長年月にわたり準備手続がなされたところ、原告はこの準備手続中に右証人の尋問を申し出たことはない。原告はその昭和三三年一〇月三〇日付で証拠調申請をした神戸市垂水区西垂水天ノ下六八番地証人石田保は前記石田孝二の誤記であると口頭弁論において主張し、その訂正を求め石田孝二の尋問がなされたが、被告両名は右誤記訂正の事実を知らず原告がさきに証人の申出をした石田保は現実に生存しかつ原告と破産会社株式会社新興機械製作所とが取引を開始した当初から現在にいたるまで原告会社の機械課に勤務しており、しかも右破産会社との取引について常に密接に関与していたものである。これに対し石田孝二はいかなる人物か全く正体不明で右破産会社代表取締役松田一郎は昭和二七年頃原告と取引開始以来昭和二九年七月末まで原告会社に頻繁に出入しその経理担当者とは絶えず交渉を継続していたが、当時の原告会社の計理担当者は男子社員一名と女子事務員一名がいただけで石田孝二とは顔を合わせたこともなかつた。このような正体不明な奇怪千万な石田孝二の尋問を準備手続中に申出することなく口頭弁論にいたり「石田保として申し出た証人は石田孝二の誤記であつた。」などと称しみだりにその訂正を求めることは民事訴訟法に準備手続制度を設けた精神に反し許されない。原告が準備手続中に申し出た証人石田保が現存せず、かつ原告と前記破産会社との間の取引につき無関係なものであればともかく、石田保は現存し、しかもその取引に密接に関与していた原告社員であるから、準備手続中一旦この尋問の申出をしておきながら、口頭弁論においてその誤記でないことの明白であるにもかかわらず誤記であると偽り、石田孝二に置き換えてなされた同人に対する証拠調は不適法で無効である。」というのである。

原告訴訟代理人のこの点に対する主張は、「被告両名の主張する事項は中間判決事項ではない。すなわち、民事訴訟法一八四条の「中間の争」なる概念は、訴訟の開始、進行、終了等に関する訴訟上の事項や訴訟行為の効力についての当事者間の争で必要的口頭弁論にもとづいて判断すべきものを指すのであり、判決事項である。被告両名の主張は、要するにすでに裁判所が証拠の申出、準備手続の効力等を考慮してすべて有効と判断した証拠決定および証拠調の効力を争うものであり、この主張は同法四一〇条の抗告で争うべき事項を中間判決の申立をしているのであり、前述の中間の争ではないから全く理由がない。本件につき、原告が準備手続中に申し出て証人石田保は、石田孝二の誤記であつたので、口頭弁論期日においてその旨上申し訂正のうえ採用され、二回にもわたる主尋問も終つている。しかるに被告は裁判所が証拠決定をした後に遅滞なく不服の申立をしなかつたので証拠調を行つたのであるから、民事訴訟法一四一条の責問権の放棄に該当し不服の申立はできない。仮りに百歩を譲り被告主張のように中間判決事項であつたとしても、裁判所は常に中間判決をしなければならないものでなく終局判決の理由中で判断してもよいものであり、本件のように裁判所の判断にもとづく証拠決定および証拠調を争う場合には裁判所が判決理由において証拠として採用するかどうかの問題となるにすぎないことは自明の理である。」というのである。

理由

当裁判所は、弁論を右中間の争に制限して審理するに、原告は被告両名の主張する事項は中間判決事項に属しないと主張するので、まづこの点について当裁判所の見解を明らかにする。

民事訴訟法一八四条は、中間判決事項として、(一)、独立した攻撃防禦方法に関するもの、(二)、その他の中間の争に関するもの、(三)、請求の原因および数額につき争のある場合においてその原因に関するものの三を掲げているが、本件被告両名の主張する事項が右(一)、(三)に該当しないことは明白である。そこで右「その他の中間の争に関するもの」に該当するかどうかについて考えるに、ここに中間の争とは、必要的口頭弁論にもとづく判決手続において裁判すべき訴訟手続に関する当事者間の争をいうのであつて、特に決定を以てなすべきものと規定している場合およびその判断の結果訴訟を完結すべきことになる場合を除かれるが、その他の訴訟手続に関する当事者間の争はそれが訴訟の開始、進行、終了に直接問題となる訴訟要件の存否、訴取下の効力、中断の有無、訴訟承継の有無、和解による訴訟終了の有無等についての争はもとより、個々の訴訟行為の効力、証拠調、証拠方法の適否、証拠抗弁、書証の真正、自白の取消等後になされるべき終局判決の基本として準備すべき訴訟上の個々の争もまた当事者間の中間の争として中間判決事項に属するというべきところ、被告両名の主張する事項がすでになされた証拠調手続が違法で該証拠方法は不適法のものと主張するものであることはその主張に徴し明らかなところであるから、このような証拠調、証拠方法の適否についての争もまた当事者間の中間の争として中間判決事項に属すること明らかである。

本件につき昭和三七年一月一八日午後一時および同年五月一七日午前一〇時の各口頭弁論期日に原告申出の吹田市西泉町三二七八番地証人石田孝二に対する証拠調が行われたこと、本件については昭和三一年一〇月二〇日から昭和三六年二月二七日にいたる間準備手続が行われ、右準備手続中において原告が昭和三五年五月一四日午前一〇時の準備手続期日に昭和三三年一〇月三〇日付証拠申出書にもとづき神戸市垂水区西垂水天ノ下六八番地証人石田保外六名の証人ならびに文書提出命令、文書取寄の申出をしたが、右準備手続中において証人の氏名を石田孝二としての申出はなかつたこと、右準備手続終了後昭和三六年九月二五日午後一時の口頭弁論期日において当裁判所が原告申出の証人石田孝寿外一名の尋問を採用し、前記両回の期日にわたり証人石田孝二の尋問がなされたものであることはいずれも本件記録上明らかなところである。

そこで、さらに証人石田孝二の証拠調が行われるにいたつた経過について考えると、前記昭和三六年九月二五日午後一時の口頭弁論期日において原告訴訟代理人はさきに申出をした証人石田保は「石田こうじゆ」の誤記であるから訂正する旨口頭で陳述し、これに対し同期日に出頭し右陳述に際し立ち会つていた被告両名訴訟代理人においてなんらの異議もなかつたため、当裁判所はその口頭の訂正にもとづき原告申出の証人石田孝寿を採用する旨告知したものであることは、当裁判所に顕著な事実であり、右証人石田孝寿に対する証人尋問期日呼出状が神戸市垂水区西垂水天ノ下六八番地宛でなされたが、同地番に当該氏名の者居住しない旨の石田保名義の付箋が付けられて返送され、その後石田孝二名義で当裁判所に証人尋問期日請書が提出されるとともに原告訴訟代理人から書面で証人の住所氏名を吹田市西泉町三二七八番地石田孝二と上申され、その証人尋問期日兼弁論期日である昭和三七年一月一八日午後一時の口頭弁論期日において原告訴訟代理人、被告両名訴訟代理人、証人石田孝二ほかの出頭のもとに同証人に対する人定尋問、宣誓を経て原告訴訟代理人の主尋問が、ついでその続行期日である昭和三七年五月一七日午前一〇時の口頭弁論期日に同様原告訴訟代理人、被告両名訴訟代理人、証人石田孝二ほかの出頭のもとに同証人に対する主尋問がそれぞれ行われ、さらに同証人に対する反対尋問期日兼弁論期日と指定された昭和三七年九月一八日午前一〇時の口頭弁論期日にいたつて被告両名訴訟代理人から証人石田孝二に対する証拠調は違法であるから反対尋問をなさない(但し反対尋問権を放棄するものでない。)旨主張するにいたり、同証人に対する被告らの反対尋問が行われないまま同期日を経過したものであることは、いずれも本件記録に徴し明らかである。

以上認定の事実からすると、原告が準備手続において申出した証人石田保は現存する人物であり、証人石田孝二とは別人であることは明らかであるが、原告訴訟代理人の前認定の弁論期日における証人の表示の誤記訂正の陳述ならびにこれを許容して訂正された証人の採用を告知した当裁判所の措置について同期日に出頭し弁論に立ち会つていた被告訴訟代理人において直ちに異議を述べなかつたのであるし、さらに証人石田孝二に対する尋問が両回の期日にわたつて被告両名訴訟代理人の立ち会いのもとに行われた際にもこれに対しなんらの異議もなかつたのであるから、被告両名主張のとおりの違法があつたとしても、前記証人の誤記訂正の適否ないしはすでに行われた証人石田孝二に対する証拠調の適否についてはその責問権を喪失しこれを争い得なくなつたものであるから、結局証人石田孝二に対する証拠調は適法かつ有効のものといわなければならない。

なお付言するに中間判決事項であつても、これにつき中間判決をするかどうかは裁判所の裁量によるもので、この点の判断を終局判決に委ねてもよいものであることは、原告主張のとおりであるが、中間判決は、終局判決の際に判断すべき本案または訴訟手続に関する争点を終局判決前に解決しておくことにより終局判決を準備するものであつて、これにより訴訟の適切、円滑な進行をはかる目的でなされるものであるところ、本件については、証人石田孝二に対する証拠調が反対尋問の段階にいたりその証拠調の適否についての争が生じ、その反対尋問が行われないまま経過していることに鑑み、ここに中間判決をする次第である。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 岡野幸之助 大久保敏雄 鈴木清子)

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